企業の環境問題への取り組みの一つとして、「カーボンフットプリント」が注目されています。カーボンフットプリントを導入すれば、製造工程でのCO2排出量を見える化でき、消費者の削減努力を促すことで地球温暖化の防止に役立ちます。企業価値の向上も期待できるでしょう。
この記事では、カーボンフットプリントが注目を集める理由や算定方法、具体的な取り組みを詳しく解説します。
- カーボンフットプリントが世界各国で注目されている理由
- カーボンフットプリントの算定方法
- カーボンフットプリントへの取り組みの具体例
カーボンフットプリントとは
カーボンフットプリントとは
カーボンフットプリントは、製品やサービスの製造工程などで排出される温室効果ガスの量をCO2(二酸化炭素)の排出量に換算し、表示することです。
単に「CFP」と表記されることもあります。
カーボンフットプリントは「ライフサイクルアセスメント」と呼ばれる手法がベースとなっています。製品の原材料調達から廃棄・リサイクルまでの全過程(ライフサイクルステージ)における環境負荷を定量的に算出・評価することが目的です。
例えば、ペットボトルに入ったお茶であれば、以下のようなライフサイクルステージが予想されます。
- 原材料調達:ペットボトルの製造、原材料(茶葉)の栽培
- 生産:ジュース製造、パッケージング
- 流通・販売:輸配送、冷蔵輸送、販売
- 使用・維持管理:冷蔵
- 廃棄・リサイクル:ペットボトル収集、リサイクル処理
カーボンフットプリントの計算では、上記すべての工程、あるいは一部の工程の温室効果ガス排出量をCO2に換算します。
工程ごとにCO2量を算出する理由
工程ごとにCO2量を算出する理由
工程ごとにCO2量を算出する理由は、以下の二つです。
- サプライチェーン全体の排出量を見える化するため
- 消費者に消費・使用段階でのCO2排出量を自覚させるため
効率よくCO2削減に取り組むには、サプライチェーン(生産や加工、流通、販売に至るまでの流れ)のどの部分でCO2を多く出しているのかを把握する必要があります。工程ごとのCO2排出量を見える化すれば、主要なCO2排出源を特定でき、効果的な対策を講じやすくなるでしょう。
また、地球温暖化を抑制するには、一人ひとりが意識して行動する必要があります。カーボンフットプリントによって各工程のCO2量がわかれば、消費者は製品を実際に消費・使用する際に、どれくらいのCO2を排出しているかを自覚できます。その結果、CO2排出量を抑えられる製品を選ぶようになることが期待できるでしょう。
カーボンフットプリントとカーボンオフセットの違い
カーボンフットプリントとカーボンオフセットの違い
カーボンフットプリントと似た言葉に「カーボンオフセット」があります。カーボンオフセットとは、CO2排出量をクレジット(排出権)の購入により相殺することです。
カーボンオフセットは、削減できなかったCO2排出量をゼロにする目的があります。植林や森林保護などによる温室効果ガスの削減・吸収活動、または他者が実現した温室効果ガス削減量をクレジットとして購入し、相殺します。
一方で、カーボンフットプリントの目的は、ライフサイクルステージにおけるCO2排出量を算定・分析したうえで見える化し、企業や消費者などにCO2排出量の削減活動を促すことです。
CO2排出量を見える化すれば、「削減できなかったCO2排出量」の見える化も可能になり、より具体的なカーボンオフセットの取り組みにつなげられます。
このように、双方は密接な関係にあります。
カーボンフットプリントが注目される理由
カーボンフットプリントが注目される理由
カーボンフットプリントが注目される理由は、以下の二つです。
- 地球温暖化による気候変動が問題視されているため
- 企業価値向上につながるため
それぞれについて順に説明します。
地球温暖化による気候変動が問題視されているため
地球温暖化による気候変動が問題視されているため
カーボンフットプリントが重視される理由の一つは、地球温暖化による気候変動が問題視されているためです。
2025年1月、欧州連合(EU)の気象情報機関は、2024年の世界平均気温が18世紀後半に起こった産業革命以前よりも1.6度高かったことを発表しました。
世界の平均気温の上昇は、地球温暖化による気候変動が主な要因です。そのため近年は、国際的な流れとして世界各国で温室効果ガスの削減が求められています。
日本も「2050年までのカーボンニュートラル実現」を目標に掲げており、その達成のために、政府や企業、個人単位での取り組みが求められています。しかし、定量的な現状把握ができなければ、どこから着手すべきかの判断ができません。
一方、カーボンフットプリントを活用すれば、CO2排出量を定量的かつ客観的に算定できます。CO2排出量が多い工程・少ない工程を特定し、優先順位や具体的な数値を目標を定めてCO2削減に取り組めば、より効率的に地球温暖化の防止に貢献できます。
企業価値向上につながるため
企業価値向上につながるため
カーボンフットプリントへの取り組みは、企業の発展にもつながります。
近年、「環境や社会への配慮は企業の責務である」という考えのもと、世界中でSDGs経営やESG経営が重視されています。SDGsは「持続可能な開発目標」、ESGは「環境・社会・ガバナンス」のことです。
企業がカーボンフットプリントを活用して地球温暖化の改善に取り組めば、評価や価値向上につながり、競争力を獲得できるでしょう。
また、環境問題に配慮した製品やサービスを支持する消費者が増えています。カーボンフットプリントを導入して製品やサービスに表示すれば、環境問題に取り組んでいることを消費者に向けてアピールでき、売上と業績向上につながることが期待できます。
カーボンフットプリントの算定の流れ
カーボンフットプリントの算定の流れ

カーボンフットプリントを算定する手順は、次の三つです。
- 算定方針の検討
- 算定範囲の設定
- カーボンフットプリントの算定
カーボンフットプリントの導入にあたっては、「何を算定するのか」「どのように算定するのか」をあらかじめ決める必要があります。
1.算定方針の検討
1.算定方針の検討
まず、カーボンフットプリントの対象となる自社製品と具体的な算定方法を決定します。カーボンフットプリントの主な算定方法の指針・基準は以下のとおりです。
【国際基準】
- 国際標準化機構:ISO14067及び関連規定
- GHG Protocol:Product Standard
- wbcsd:PathFinder Framework
【業界団体による指針】
- 一般社団法人日本化学工業協会:化学産業における製品のカーボンフットプリント算定ガイドライン
- 国際酪農連盟(IDF):酪農乳業セクターのためのカーボンフットプリントIDFグローバル・スタンダード
※リンク先は一般社団法人Jミルクによる和訳
なお、上記の指針・基準は、それぞれ満たすべき要件が異なるうえに、具体的な算定方法までは定められていません。カーボンフットプリントの導入は、算定する目的を明確にしたうえで最適な算定方法を選び、自社ルールの確立を行う必要があります。
2.算定範囲の設定
2.算定範囲の設定
カーボンフットプリントの算定方針を決めたあとは、ライフサイクルステージにしたがって算定範囲を設定しましょう。製品のライフサイクルステージは、次の5工程に分けられます。
- 原材料調達
- 生産
- 流通・販売
- 使用・維持管理
- 廃棄・リサイクル
カーボンフットプリントは上記の5工程のうち、どこまでを算定範囲にするかに応じて「Cradle to Grave CFP」と「Cradle to Gate CFP」に分けられます。
- Cradle to Grave CFP:5工程すべてを算定対象とする
- Cradle to Gate CFP:「1.原材料調達」から「2.生産」までを算定対象とする

画像引用:カーボンフットプリント ガイドライン
例えば、BtoC製品は「Cradle to Grave CFP」、BtoB製品は「Cradle to Gate CFP」を採用するなど、ビジネスモデルによって算定範囲は異なります。
3.カーボンフットプリントの算定
3.カーボンフットプリントの算定
カーボンフットプリントの算定範囲を決めたら、温室効果ガス排出量の計算に進みます。

画像引用:カーボンフットプリント ガイドライン
カーボンフットプリントは、温室効果ガス排出量を直接計測する方法と、各工程における「活動量×排出係数」によって温室効果ガス排出量を算出する方法があります。
活動量とは、各工程における原材料の使用量や電力消費量などの数値です。排出係数は、1単位あたりの温室効果ガス排出量を指します。
活動量と排出係数は、実測値に基づくのが望ましいとされています。ただし、取得が難しければ環境省などが提供しているデータベースの活用が可能です。
なお、算定の際には以下を作成します。
- ライフサイクルフロー図
- 算定対象とするライフサイクル各工程を図に落としたもの
- 算定手順書
- 算定の基本方針や算定方法を明記した資料
- 算定ツール
- 実際に数字を入れて算定するツール
工程ごとの温室効果ガス排出量を合算すれば、カーボンフットプリントが算出されます。
カーボンフットプリントの課題
カーボンフットプリントの課題
ここからは、カーボンフットプリントの以下の三つの課題について説明します。
- 算定や情報収集などに多くの手間・コストを要する
- 正確な測定が難しい
- 消費者の認知度が低い
算定や情報収集などに多くの手間・コストを要する
算定や情報収集などに多くの手間・コストを要する
カーボンフットプリントの算定には、多くの手間とコストが発生します。企業は各工程でデータを集めたり、計算したりする必要があり、開示コストは大きな負担となります。
それにもかかわらず、カーボンフットプリントに費やしたコストを、製品の販売価格に上乗せできるとは限りません。金銭的・人的コストは企業にとって大きな負担であり、カーボンフットプリントの普及を阻害する可能性が高いといえるでしょう。
カーボンフットプリントを導入する企業を増やすには、インセンティブを付与する仕組みを構築し、企業負担を軽減する仕組みが求められます。具体的には、カーボンフットプリント製品に対する公共事業の入札への加点評価、エコポイントの付与、法人税の減免などが考えられます。
正確な測定が難しい
正確な測定が難しい
カーボンフットプリントの大きな課題の一つとして、算定に関する明確なルールが設けられていない点が挙げられます。
先述したとおり、カーボンフットプリントの算定基準は複数あり、基準ごとに満たすべき算定要件が異なります。採用する基準に応じて測定結果に誤差が生じるため、正確な数値の取得は難しいといわざるをえません。
また、ライフサイクルステージ全体の排出量を把握したいのであれば、取引先を含んだサプライチェーンの協力や管理も必要となります。しかしながら、実際には取引先とのデータ共有がうまくいかないケースも多く、正確な数値の測定は難しいといえるでしょう。
消費者の認知度が低い
消費者の認知度が低い
カーボンフットプリントは徐々に浸透しつつありますが、いまだ認知していない消費者も多いのが現状です。
カーボンフットプリント自体は知っていても、ラベルなどに表示されたカーボンフットプリントの数値を見て、CO2排出量が多いのか、少ないのかを判断できる消費者は少ないでしょう。
このように消費者の認知度が低い状況では、企業がコストをかけてカーボンフットプリントを計算・開示しても大きなメリットは見込めません。
カーボンフットプリントの早急な啓蒙活動が求められます。
海外・日本におけるカーボンフットプリントへの取り組み
海外・日本におけるカーボンフットプリントへの取り組み
地球温暖化対策として、カーボンフットプリントを積極的に導入している国もあります。ここからは、海外や日本におけるカーボンフットプリントへの取り組みを説明します。
海外の取り組み
海外の取り組み
海外では、主にEUやアメリカでカーボンフットプリントの取り組みが実施されています。例えばアメリカは、2006年から「EPEAT」という認証制度を導入しており、カーボンフットプリントが重要な役割を果たしています。
EUの取り組み
EUの取り組み
EUは「炭素国境調整措置(CBAM)」の導入を決定し、2023年10月より移行期間がはじまっています。炭素国境調整措置は、気候変動対策が不十分と判断された国からの輸入品に対して炭素課金を行う制度です。
2023年10月より、炭素国境調整措置の対象製品をEUに輸出する際は、カーボンフットプリントの報告が義務付けられています。
なお、2024年から順次施行がはじまった欧州電池規制(バッテリー規制)の一環として、以下の電池においてカーボンフットプリントの申告が義務化されます。
- 携帯用電池
- 始動・照明・点火(SLI)用電池
- 軽輸送手段(LMT)用電池
- 電気自動車(EV)用電池
- 産業用電池
また、カーボンフットプリントの上限値が定められ、上限値を超える電池は、EU市場での流通に制限が課せられます。
アメリカの取り組み
アメリカの取り組み
アメリカでは、2006年7月から「EPEAT」という認証制度が導入されました。EPEATとは、環境に配慮された電子製品であることを示す認証で、評価項目の一部にカーボンフットプリントも含まれています。
なおアメリカは、「政府が購入する電子製品の95%以上がEPEAT登録商品でなければならない」としています。
さらに、カリフォルニア州では2017年に「Buy Clean California Act」が制定されました。この制度では、公共事業などで調達される特定資材に対して、カーボンフットプリントが課されています。
日本の取り組み
日本の取り組み
日本では、経済産業省と環境省の連名で「カーボンフットプリント ガイドライン」と「カーボンフットプリント ガイドライン(別冊)CFP実践ガイド」が公開されています。
それぞれには、カーボンフットプリントを実施する企業やステークホルダー向けに、カーボンフットプリントの取得意義や目的、算定方法、表示・開示方法、排出量削減の検討方法などがまとめられています。
先述したとおり、カーボンフットプリントは具体的な算定方法が定まっておらず、公平性の観点から大きな問題がありました。また、国際基準には解釈が分かれる部分や明記されていない事項があり、企業独自の算定方法を設定せざるを得なかった背景があります。
こうした現状を踏まえて、日本政府はカーボンフットプリントガイドラインの作成に着手し、実践ガイドでは算定ルールを明確にしています。
参考:
まとめ
まとめ
カーボンフットプリントとは、製造工程などで排出された温室効果ガスの量をCO2排出量へと換算し、ラベルやパッケージに表示する取り組みです。カーボンフットプリントを導入すれば、環境問題に取り組んでいることをアピールできるため、企業価値の向上につながるでしょう。
しかし、導入コストの高さや正確な測定の難しさ、消費者の認知度の低さが原因で、いまだ導入していない企業も少なくありません。
日硝実業では、包装容器の企画提案やデザイン、開発、販売事業を行っています。お客様のご希望をていねいにヒアリングし、企画から設計、品質管理、生産までの過程をトータルサポートします。
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