改正食品衛生法でポジティブリストの運用が義務化されたものの、「自社でどのように対応すべきかわからない」と悩んでいる方もいるのではないでしょうか。ポジティブリスト制度にしたがうことは、安全性の確保だけでなく、業務の効率化やグローバル化の面でも有効です。
今回は、ポジティブリストの対象となる物質や、制度を守ることで得られる効果、事業者がとるべき対応を解説します。食品用の器具・容器包装の製造事業に関わる方は、ぜひ参考にしてください。
- ポジティブリストとはなにか
- 対象となる物質
- 事業者がとるべき対応
ポジティブリストとは
ポジティブリストとは
ポジティブリスト(PL)とは、食品に触れる可能性がある器具や容器包装について、使用が認められた物質や使用可能量などの条件を一覧にした表です。この一覧表で規定されている物質以外の使用を禁止するしくみが、「ポジティブリスト制度」です。
ポジティブリストはより安全な製品の提供を目的に、2018年に公布された改正食品衛生法で導入が定められ、2020年から施行されました。ここからは、制度が導入された背景や、対象範囲を見ていきましょう。
ポジティブリスト制度が定められた背景
ポジティブリスト制度が定められた背景
ポジティブリストは、食品衛生管理の向上を目的に改正食品衛生法で義務化された制度で、2020年より施行されました。
ポジティブリスト制度の施行前は、ネガティブリストがおもに利用されていました。ネガティブリストは、使用を禁止する物質を一覧にしたリストです。
ネガティブリスト制度では、リスト未記載の物質については、たとえ安全性に不明な点があっても使用できてしまうという課題がありました。ポジティブリスト制度は、こうした課題を解消し、より安全性を高めるために採用されました。
ポジティブリスト制度により、安全性が確認できていない未知の物質が使用されるリスクを軽減でき、より高い安全性を担保できます。
なお、法改正からの経過措置として2025年5月31日までは猶予期間が設けられていました。施行以前に流通していたものについては、猶予期間中であれば違反にならず、使用および製造が可能です。
ポジティブリストの対象範囲
ポジティブリストの対象範囲
ポジティブリストの対象に指定されている物質を以下の表にまとめました。表にある「熱可塑性」とは、熱を加えることでやわらかくなり、冷めるとかたくなる性質のことです。

画像出典:食品衛生法等の一部を改正する法律の政省令等に関する資料
ここからは、対象および対象外となる物質を詳しく説明していきます。自社の製品を念頭におきながら確認してください。
対象となる物質
対象となる物質
食品衛生法施行令第1条において、リストの対象となる物質は合成樹脂と定められています。合成樹脂と呼ばれるものは、具体的には以下の三つです。
- 熱可塑性プラスチック
- 熱硬化性プラスチック
- 熱可塑性エラストマー
合成樹脂は、ラップやパック、ペットボトルなど、食品用容器や包装に使用されています。日常生活で使用する頻度が高く、公衆衛生への影響が大きい物質です。また、欧米諸国が用いるポジティブリスト制度でも対象となっています。
対象外となる物質
対象外となる物質
厚生労働省によると、ポジティブリストの対象外となる物質は以下のとおりです。
- 合成樹脂以外の原材料に該当する物質(ゴムの原材料となる熱可塑性を持たない弾性体、 無機物質、天然物など)
- 器具・容器包装から放出され、食品に移って作用することを前提とした物質
- 帯電防止や防曇等を目的とし、器具・容器包装に使う原材料の表面に付着させる液体状または粉状の物質
- 原材料に含まれる物質が化学的な変化を起こして生成した物質
- 最終的に完成した製品に残ることを意図しない物質
上記にもあるとおり、ゴムの原材料となる熱可塑性を有さない弾性体は、合成樹脂には含みません。そのためポジティブリストの対象外です。
なお、食品と直接接触する部分に使用されていなくても、人の健康を害する可能性がある物質の含有量が基準値(食中濃度として0.01mg/kg)を超える場合はポジティブリストの対象外となります。物質自体が定められたものか確認するのはもちろん、使用量を守ることも重要となります。
ポジティブリストの遵守によって得られる効果
ポジティブリストの遵守によって得られる効果
ポジティブリストを守ることは事業者の義務です。遵守することで製品の安全性の確保はもちろん、業務の効率化などさまざまなメリットがあります。
ここでは、事業者が制度を遵守することによって得られる効果を4点ご紹介します。
有害物質混入や食中毒等のリスク回避による安全性の確保
有害物質混入や食中毒等のリスク回避による安全性の確保
ポジティブリスト制度にしたがうことで、消費者に安全安心で衛生的な食品用器具・容器包装を提供できます。
従来のネガティブリストによる運用では、リストに記載されていない物質が使用されるおそれがありました。しかし、ポジティブリストの運用により、安全性が確かめられた物質だけを使用でき、有害物質の混入や食中毒のリスクを軽減できるようになりました。これは事業者にとっても消費者にとっても大きなメリットといえるでしょう。
信頼性・ブランドイメージの向上
信頼性・ブランドイメージの向上
消費者に安心を届けられる点も、ポジティブリストの大きな利点です。
ポジティブリストにリストアップされた安全性が認められた物質を使えば、消費者は安心して購入できます。結果として消費者の信頼を獲得できるでしょう。また、安全安心な製品を提供している企業として、ブランドイメージの向上も期待できます。
使用可能物質の可視化による業務の効率化
使用可能物質の可視化による業務の効率化
ポジティブリストにより、使用可能な物質が明確化されました。これにより、製品開発や工程管理などがスムーズになります。
ポジティブリスト導入前は、材料を選ぶたびに、ネガティブリストに載っていないかをチェックする手間が発生していました。しかし、改正後は使用可能な物質のみがリスト化されたため材料選定の手間が省略され、製品開発や工程管理などにかかる業務の効率化が可能になりました。
国際的な安全基準の遵守によるグローバル展開の迅速化
国際的な安全基準の遵守によるグローバル展開の迅速化
ポジティブリスト制度は、食品における国際的な安全基準と連携した制度です。使用可能対象となっている物質は、欧米諸国の例も参考に定められています。つまり、ポジティブリスト制度に則って製品開発や工程管理をしておけば、国際的な食品の安全基準もクリアすることになります。結果として、事業を国外で展開するうえでのトラブルを未然に防ぐことができ、海外の事業者や顧客にスムーズに輸出できるでしょう。
ポジティブリスト制度の遵守は、事業のグローバル化にも貢献するといえます。
ポジティブリスト制度で求められる事業者の対応
ポジティブリスト制度で求められる事業者の対応
2020年に改正食品衛生法が施行されて以降、食品用の器具や容器包装を製造・販売する事業者を対象にポジティブリスト制度の遵守が義務化されました。違反した場合は、1年以下の懲役または100万円以下の罰金に処されることが、食品衛生法83条1号で規定されています。
では、制度を遵守するために、事業者はどのような対応をとっていくべきなのでしょうか。事業者がとるべき対応を3点ご紹介していきます。
事業者間の情報伝達
事業者間の情報伝達
食品用の器具や容器包装を製造・販売する事業者は、販売相手に対してポジティブリスト制度に適合していることを説明する義務があります。また、器具や容器包装の原材料を扱う事業者は、製造事業者から原材料に関する問い合わせがあった際、必要な説明をしなければなりません。
これらは、食品衛生法第53条に規定されています。関連事業者は、法律にのっとり事業者間の情報伝達を遵守することが必要です。
適正製造管理規範(GMP)の遵守
適正製造管理規範(GMP)の遵守
食品衛生法第52条では、器具または容器包装を製造する施設の衛生的な管理や、公衆衛生上必要な措置の基準が定められており、適正製造管理規範(GMP)の遵守が求められます。
適正製造管理規範(GMP:Good Manufacturing Practice)とは、製品の品質・安全性を確保するために守らなければならない規範や基準のことです。具体的には、適切な管理組織の構築や施設設備の衛生管理、原材料の管理および異物混入防止などが挙げられます。適正製造管理規範は単に、「製造管理規範」「適正製造規範」ともいいます。
食品用器具や容器包装の製造に従事する事業者は、GMPを遵守しなければなりません。
製造管理及び器具・容器包装製造事業者の届出
製造管理及び器具・容器包装製造事業者の届出
2021年より営業届出制度が施行され、食品用の器具または容器包装の製造事業者は、管轄の保健所への届出が必要となりました。
届出の対象範囲は以下のとおりです。
- 部品を含む器具を製造する営業者
- 食品または添加物を製造する営業者へ納品される直前の容器包装を製造する事業者
- 器具または容器包装の製造が委託されている場合、それを委託する者および委託先
なお、ポジティブリスト対象の材質を用いる事業者は、上記の届出の対象事業者となり、「適正製造管理」の基準を守ることが求められます。一方、上記に該当しない事業者を含む、すべての食品用の器具や容器包装を製造・販売する事業者は、「一般衛生管理」の基準の遵守徹底が求められます。
まとめ
まとめ
ポジティブリスト制度は、食品衛生管理の向上を目的としてスタートした制度です。関係事業者は、事業者間における情報伝達や、適正製造管理規範(GMP)の履行など、適切な対応が求められます。
制度の遵守には一定の手間とコストがかかりますが、一方で、業務の効率化やグローバル展開への貢献を見込めるというメリットもあります。
現在ご利用の、あるいは利用を検討されている容器がポジティブリストに適合しているかどうかを知りたい方は、日硝実業までぜひお問い合わせください。
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