2026年8月12日、EUの包装規則「PPWR」の適用が始まりました。素材を問わずEU市場に上市されるすべての包装が対象となるため、自社製品の包装が該当するのか、何から手をつけるべきか不安を感じている方も多いのではないでしょうか。ただし、8月12日からすべての義務が一斉に始まるわけではありません。
この記事では、PPWRの概要や従来の指令との違い、いま対応が必要な要件と今後段階的に強化される要件を整理したうえで、日本企業が進めるべき準備を解説します。
- PPWRとは
- PPWRで定められる主な規制内容
- PPWRへの対応に向けて日本企業が取り組むこと
PPWRとは
PPWRとは
PPWRとは、EUにおける包装と包装廃棄物に関する新たな規則のことです。包装廃棄物の削減や循環型経済への移行を目的として、包装の設計から使用、廃棄に至るまで、幅広い要件を定めています。ここではまず、PPWRが制定された背景や目的、対象となる包装、そして従来のPPWDからの変更点を解説します。
PPWRの正式名称・目的と対象となる包装
PPWRの正式名称・目的と対象となる包装
PPWRは「Packaging and Packaging Waste Regulation」の略称で、日本語では「包装および包装廃棄物規則」と訳されます。正式な法令名は「Regulation(EU)2025/40」です。
EUでは包装廃棄物の増加や一次原料への依存が課題となっており、包装廃棄物の削減と循環型経済への移行を進めるために制定されました。包装の設計・製造から使用、再利用、リサイクル、廃棄まで、ライフサイクル全体に関する要件を定めています。
対象となるのは、素材を問わず、EU市場に上市される原則すべての包装と包装廃棄物です。商品に直接触れる一次包装だけでなく、集合包装や輸送用包装、EC向け包装、産業用・業務用包装なども含まれます。
従来のPPWD(指令)からの主な変更点
従来のPPWD(指令)からの主な変更点
PPWRは、従来の「Packaging and Packaging Waste Directive(PPWD/包装および包装廃棄物指令、指令94/62/EC)」に代わる制度です。
PPWDは「指令」であり、EU加盟国がその内容に沿って国内法を整備する仕組みでした。これに対しPPWRは「規則」であるため、原則としてEU加盟国へ直接適用されます。加盟国ごとの制度や運用の差を抑え、EU域内で包装に関するルールを統一することが狙いです。
また、規制の対象範囲も広がりました。PPWDが包装廃棄物の管理や回収・リサイクルを中心としていたのに対し、PPWRでは包装の設計や原材料、使用方法、表示など、上流段階から要件が強化されています。
| 比較項目 | PPWD | PPWR |
| 法形式 | Directive(指令) | Regulation(規則) |
| 加盟国への適用 | 各国が国内法へ反映 | 原則として加盟国に直接適用 |
| ルールの統一性 | 加盟国によって制度や運用に差が生じやすい | EU域内で共通のルールを適用 |
| 主な規制の方向性 | 包装廃棄物の回収・リサイクルが中心 | 包装の設計から廃棄までライフサイクル全体を規制 |
| 主な要件 | 回収・リサイクル目標など | リサイクル可能性、再生材含有率、包装削減、表示、リユースなど |
PPWRで定められる主な規制内容
PPWRで定められる主な規制内容
PPWRは、包装の設計から廃棄までのライフサイクル全体にわたって要件を定めています。ここでは、事業者に課される主な規制内容を4つに分けて解説します。
なお、要件を満たしていることを示す技術文書やEU適合宣言(DoC)の整備も必要です。適用時期は要件ごとに異なる点にも注意しましょう。
包装のリサイクル可能性に関する要件
包装のリサイクル可能性に関する要件
2030年以降、EU市場に投入されるすべての包装にリサイクル可能性が求められます。これは、設計基準(Design for Recycling:DfR)に基づくもので、リサイクル可能な割合に応じてA〜Cの性能等級が設定されます。
A等級は95%以上、B等級は80%以上、C等級は70%以上が目安とされ、70%未満の包装は2030年以降、原則としてEU市場に投入できません。さらに2038年以降はC等級も対象外となる見込みです。
この性能等級は拡大生産者責任(EPR)費用と連動しており、等級が高い場合は負担軽減、低い場合は負担増、あるいは市場投入禁止等の措置が取られる可能性があります。
再生プラスチックの使用と有害物質の制限
再生プラスチックの使用と有害物質の制限
プラスチック包装には、再生材(PCR)の最低含有率が義務付けられます。包装の種類や適用時期によって要件が異なる点には注意が必要です。
| 包装の種類 | 2030年目標 | 2040年目標 |
| PETを主成分とする接触感応型包装 | 30% | 50% |
| PET以外の接触感応型包装 | 10% | 25% |
| 使い捨てプラスチック飲料ボトル | 30% | 65% |
| その他プラスチック包装 | 35% | 65% |
また、食品接触包装に含まれるPFASなどの有害物質についても、含有量の上限が設けられます。PFASの基準値は、個別のPFASが25ppb、対象PFASの合計が250ppb、PFAS総量が50ppmです。これらの基準に抵触する食品接触包装は、原則としてEU市場への投入が制限されます。加えて、鉛・カドミウム・水銀・六価クロムの合計濃度についても、100mg/kg以下とする基準が定められています。
測定対象や分析方法には条件があり、一部には適用除外があるほか、対象範囲にも細かな規定があります。そのため、自社包装の材質や用途に沿って、該当する要件を確認することが重要です。
包装の削減・リユースと特定包装の使用制限
包装の削減・リユースと特定包装の使用制限
包装の重量や容積を製品保護に必要な最小限に抑えることは、過剰包装を抑制するための義務です。集合包装・輸送用包装・EC包装については、2030年1月1日から空隙率(空きスペース率)が50%以下に制限されます(充填材含む)。
また、包装の種類や用途ごとにリユース・リフィル目標が設定され、ホテルや飲食店等で使用される一部の使い捨てプラスチック包装は使用が禁止されます。
ラベル表示と消費者への情報提供
ラベル表示と消費者への情報提供
EU全域で、包装の材質構成を示す統一ラベルの表示が義務付けられます。再利用可能な包装には、専用の表示も必要です。これに加え、QRコードなどのデータキャリアを用いた情報提供も規定されています。
注意したいのは、表示義務が一種類ではない点です。材質構成を示す統一ラベル(第12条)と、製造者・輸入者の名称や所在地などを示す表示(第15条・第18条)は別の規定であり、適用開始時期も異なります。「ラベル表示はまだ先」と一括りにせず、どちらの表示を指しているかを分けて確認しましょう。
これらの要件は、EUへ輸出する製品の全包装材に及びます。自社の包装がどの要件に該当するのか、判断に迷うケースも少なくありません。日硝実業では、EU輸出に必要な容器関連証明書の取得支援や、海外市場の規制対応のご相談を承っています。PPWRへの対応でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。
PPWRの適用時期と施行スケジュール
PPWRの適用時期と施行スケジュール
PPWRはすでに適用が始まっていますが、すべての要件が同時に適用されるわけではありません。原則的な適用開始日に加え設定されているのが、2030年や2040年に向けて段階的に引き上げられる目標です。
なお、要件の詳細は今後の委任法令・実施法令によって具体化されるため、内容や時期が変更される可能性があります。ここでは、発効から適用開始までの流れと、現時点で示されているスケジュールを整理します。
2025年2月の発効と2026年8月の原則適用開始
2025年2月の発効と2026年8月の原則適用開始
PPWRは、2024年に欧州議会および理事会で最終合意・採択されました。2025年1月22日にEU官報へ公示され、その20日後にあたる2025年2月11日に発効しています。
ただし、発効と同時にすべての義務が生じるわけではありません。個別に適用開始時期が定められている規定を除き、発効から18か月後の2026年8月12日から適用が始まりました。事業者にとっては、この日付が対応を検討するうえでの基準となります。
従来のPPWD(指令94/62/EC)が廃止されたのも、発効時ではなくこの2026年8月12日です(一部の規定に例外あり)。また、包装材の材質識別番号を定めていたDecision 97/129/ECは、2028年8月12日に廃止される予定です。
2030年以降に段階的に適用される主な要件
2030年以降に段階的に適用される主な要件
2030年以降、包装のリサイクル性や再生材利用に関する要件が段階的に強化されます。長期的な対応には、以下のスケジュールを念頭に置いた計画策定が不可欠です。
主な適用スケジュールと目標
- 2030年:全包装のリサイクル可能化
プラスチック包装の再生材含有目標(第一段階)
集合包装・輸送用包装・EC包装の空隙率50%以下
HORECA部門での特定の使い捨てプラスチック包装使用禁止
包装廃棄物を2018年比で5%削減
- 2035年:包装廃棄物を2018年比で10%削減
- 2038年:リサイクル性能「C等級」の包装を原則排除
- 2040年:包装廃棄物を2018年比で15%削減
再生材最低含有率の引き上げ(第二段階)
※包装廃棄物削減目標に関する留意点
包装廃棄物の削減目標は、EU全体の総量ではなく、各加盟国ごとの「1人当たりの包装廃棄物量」を基準として設定されます。各加盟国および事業者には、この基準に基づいた継続的な削減努力が求められます。
PPWRが日本企業に与える影響
PPWRが日本企業に与える影響
PPWRは欧州の規則であり、日本国内で完結する取引に直接の適用義務はありません。しかし、EUへ製品を輸出する企業にとっては、対応の可否が取引の継続を左右する問題です。ここでは、日本企業が直面しうる影響を、輸出・取引面とコスト面の両方から整理します。
EU市場への輸出・取引継続への影響
EU市場への輸出・取引継続への影響
EUへ製品を輸出する場合、現地の輸入者や販売代理店などの事業者が法令順守の責任を負うため、日本企業側でも要件を満たす製品供給が欠かせません。
欧州委員会のFAQでは、第三国から包装を輸入する事業者は、EU域外の製造事業者がPPWRの要件を遵守しているかどうかを確認しなければならないと示されています。実務上はEU側の取引先から適合の証跡提出を求められ、資料を出せなければ出荷自体が止まってしまいます。
包装の見直しや適合確認に伴うコスト負担
包装の見直しや適合確認に伴うコスト負担
PPWRへの対応は、サプライチェーン全体におけるコスト増加の要因となります。
具体的な業務コストは以下のとおりです。
- リサイクル可能性や再生プラスチック含有率の目標を達成するための包装設計の刷新
- 代替素材の調達費用
- 製品が基準を満たしていることを証明するための適合性評価や技術文書の作成・管理
また、環境対応素材への需要急増に伴う調達価格の高騰や、拡大生産者責任(EPR)制度に基づく負担金も重要なコスト要素となります。さらに、コンプライアンス違反が発生した場合には、制裁金(罰金)や製品の回収命令、企業ブランドの毀損(きそん)といった深刻なペナルティが課されるリスクがあります。
PPWRへの対応に向けて日本企業が取り組むこと
PPWRへの対応に向けて日本企業が取り組むこと
要件の詳細は今後も具体化されていきますが、現段階から着手できる作業は数多くあります。すでに適用が始まっている以上、動き出しが遅れるほど包装の設計変更や書類の整備は追いつきません。
ここでは、実務担当者が進めるべき準備を、現状把握から包装の見直し、書類の整備まで3つのステップに分けて紹介します。
対象となる包装・適用要件と現状の仕様を確認する
対象となる包装・適用要件と現状の仕様を確認する
まずは、EU市場に流通する自社製品について、一次包装・集合包装・輸送用包装など、対象となる包装を洗い出します。あわせて確認したいのが、自社やEU側の取引先が製造者・輸入者・販売者などのどの事業者区分に該当するかという点です。
これらが整理できたら、適用される要件と開始時期を一覧にまとめます。そのうえで確認するのが、包装の材質や重量、再生材の含有率、リサイクル可能性といった現在の仕様です。不足する情報は、包装材メーカーやサプライヤーから材質証明などを取り寄せて補いましょう。
規制要件とのギャップを確認し包装を見直す
規制要件とのギャップを確認し包装を見直す
洗い出した要件と現行の包装仕様を一つずつ突き合わせます。リサイクル可能性や再生プラスチックの最低含有率、包装の最小化、ラベル表示といった項目が対象です。食品接触包装を扱う場合は、PFASなどの規制対象物質が基準値を超えていないかの確認も欠かせません。
未対応の要件が見つかった場合は、包装材の変更や軽量化・減容化、設計変更などを検討します。EU側の輸入者や取引先、包装材メーカーとも連携しながら、対応方針とスケジュールを決めていきましょう。
適合性評価を行い技術文書を整備する
適合性評価を行い技術文書を整備する
見直した包装がPPWRの要件を満たしているか、必要な試験や適合性評価を行います。その際は、包装の設計仕様や使用材料、試験結果など、適合性を裏付ける情報を整理しておきましょう。そのうえで、技術文書やEU適合宣言といった必要な書類を作成し、適切に保管します。
なお、要件の詳細は委任法令や実施法令によって具体化されます。最新動向を確認しながら、仕様や文書を継続的に更新できる体制を整えておくことが大切です。
まとめ
まとめ
PPWRは、素材を問わず、EU市場に上市されるすべての包装を対象とする規則です。指令から規則へと法形式が変わったことで、EU域内で共通のルールが直接適用されるようになりました。リサイクル可能性や再生材の含有率、包装の最小化、ラベル表示など、要件は包装のライフサイクル全体に及び、2030年以降も段階的に強化されていきます。
日本国内ではPPWRの適用義務はありませんが、EUへ輸出する場合はすべての包装材が対象となります。EU側の輸入者から適合の証跡を求められるため、要件を満たした生産と、それを裏付ける書類の準備が欠かせません。まずは自社の包装と適用要件を確認し、現行仕様とのギャップを埋めながら、技術文書などの準備を計画的に進めていきましょう。
日硝実業では、EU輸出に必要な容器関連証明書の取得支援や、海外市場の規制対応のご相談を承っています。PPWRへの対応でお困りの際は、お気軽にお問い合わせください。













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